前半ではロウマさんのCAになるまでのお話をご紹介しました。
今回は、カタール時代に、100 カ国以上の国際色豊かなクルーと、80カ国以上に飛び回っていた中での思い出のフライトをご紹介させていただきます。
一杯のウィスキーの重み。「私の当たり前」が「相手の当たり前」ではないと学んだ
――そのような環境の中でフライトしてきた中で、何か思い出のフライトはありますか?
ネパールのカトマンズへのフライトです。
ネパールのフライトってネパールへ里帰りする人たちがわんさか飲むので、ウィスキーが飛ぶように売れていくんですよ。そのスピードが半端ない! エコノミークラスで、ボトルが9本空いてしまうんですから。
いつもそのような状況でしたので、クルーたちの中にはため息混じりの表情で「またか」という態度でサービスする人も多かったんです。だって普通は、そんなに機内でお酒を飲みませんよね。
でも、あるとき、ネパール人の客室責任者からこんな話をされました。
「ネパールから出稼ぎに来ている彼らにとって、一年に一回故郷に帰るフライトの中で飲むウィスキーは格別。カタールでお酒なんて飲んでいられないし、家族を置いてお金を稼ぎに来ているわけですから、ネパールに帰ってもそのお金でお酒を飲むなんて自由はありません。だから、どうか嫌な顔をせず、サービスをしてあげてください」
その人たちにとって一年に一度のフライトの中で飲むウィスキーは本当に特別なものだったのだろうな……そんな風に想像すると「一杯のウィスキー」への見方が完全に変わりました。
――自分の視点から、相手の視点へと変わったんですね。
それからのフライトでは、とびきりの笑顔で、ウィスキーを並々と麦茶のように注いであげるようになりました(笑)。
すると、その男性が、「こんなに気持ち良くサービスしてくれたのは君が初めてだよ」と初めてチップをくださいました。日本円で言うと100円程度の金額でしたが、平均月収2万円の彼らがそのチップへ込めた思いを考えると本当に嬉しかったですね。
そうなんです。私はそのように異文化の中で働くことで「私にとっての当たり前」は「相手にとっての当たり前」とはまったく違う……「そんなこと当たり前だろ」と思うかもしれませんが、実体験としてそういったことを学びました。
例えば、たまに機内でお客様に「男性用トイレはどこですか?」と話しかけられるのですが、ついつい「機内には男性用も女性用もありませんけど!」と、”そんなことも知らないのですか?”という態度になってしまいがち。
でも、世間を見渡すと、いまどき男女共用トイレなんてどこにもないんです。
汚い公園の公衆トイレですら男女別ですからね(笑)。
機内が職場で、その環境が当たり前と思っていたことは、ほかの方にとっては当たり前ではないことが多々あるんだということをわかっていると、「今どき男女共用のトイレなんて機内以外どこにもないですよね! 申し訳ございません」というお声掛けが笑顔で出てくるかもしれません。
相手との「当たり前」のギャップを感じることが、コミュニケーション上手になるための第一歩
日本人同士の「当たり前」が、それぞれの人によって微妙に違うことにも敏感になりましたね。
以前は、人と話していても興味のないものに質問するタイプではなく、「ふーん」という態度で終わってしまうことがよくありました。でも、この学びのおかげで「人との当たり前の違いを楽しんでみよう」という気持ちが芽生えたんです。
例えば、私は映画にまったく興味がありません。暗闇に2時間もいたら眠くなるし、値段も安くないし、数カ月まではDVDで見られるし、なぜわざわざ映画館に行くのか理解ができなかった。
昔であれば映画に興味がある人がいてもスルーしていたと思います。でも今は、「なぜ?」と会話することにしたんです。「映画は楽しくない」が当たり前の自分と、「映画は素晴らしい」が当たり前の相手とのギャップを知りたくて。
そうすると、暗いからこそ集中できたり、周りにも同じ心境の人がたくさんいる映画館の中で観るからこそその空気感を楽しんで一緒に泣けたり、アクションは大スクリーンだからこそ楽しめたりと、そこには新しい発見がたくさんあった。
――そのように自分と相手の間に生じる「ギャップ」に興味を持ち、会話をすることって難しいような気もします。
私は「マツコデラックスさんってすごいな」といつも思うのですが、マツコさんが出演されている番組では、ゲストの方の意見をバシバシ否定していくシーンも多々あります。でも、同時に相手の興味を聞き出していくんです。そのように、たとえ興味がなくても、さまざまなことに対して関心を持ち「聞く」ことであの会話の幅の広さ、知識の深さを手に入れられたんだろうなと思います。
――ロウマさんのお話しを聞いていると、もちろん愚痴や不満などもあるとは思うのですが、仕事へ対しての「愛」をものすごく感じます。きっとこれからもずっとフライトをされていくのですね。
はい、もちろん大変なことはありますが、この仕事はずっと続けていきたいですね。
この仕事って一種の中毒のようなもので。私も一旦降りて地上職(エアライン講師)をしたことがありましたが、やはりどうしても戻りたくなって戻ってきてしまいましたね。
現在はフライトをしながら、エアライン受験生のサポートもしているのですが、その子たちと一緒にフライトをしたり、空港でお互い制服姿でばったり出会えたりするのが楽しみでなりません。

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